CHRO しー・えいち・あーる・おー
近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。
本用語集では「CHRO」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。
目次
「CHRO」をひとことでいうと?
CHRO(シー・エイチ・アール・オー)とは、Chief Human Resources Officer の頭文字の略で、最高人事責任者のことを指します。企業の人材戦略を統括し、経営陣の一員として重要な意思決定に関わる役職です。
CHROの基本概念
CHRO(最高人材責任者:Chief Human Resources Officer)は、企業の経営層において人材戦略を統括し、ビジネス目標の達成を支援する重要な役職です。経営トップ5Cと呼ばれる主要な経営陣の一員として、経営の中核を担い、それぞれの専門分野から企業の成長と競争力強化に貢献します。
・CEO(最高経営責任者:Chief Executive Officer)企業全体の戦略立案と実行を統括
・CSO(最高戦略責任者:Chief Strategy Officer)中長期的な経営戦略の策定と実行を統括
・CHRO(最高人材責任者:Chief Human Resources Officer)人材戦略の立案と実行を統括
・CFO(最高財務責任者:Chief Financial Officer)財務戦略の立案と実行を統括
・CDO(最高デジタル責任者:Chief Digital Officer)デジタル戦略の立案と実行を統括
特にCHROの役割は、単なる人事管理にとどまらず、組織全体の人材育成、企業文化の形成、そして長期的な人材戦略の立案と実行に及びます。
CHROが注目されている背景
現代のビジネス環境は、デジタル化の加速や労働市場の流動化により急激に変化しています。このような状況において、企業が持続的に成長するためには、変化に迅速に適応するための柔軟な人材戦略が不可欠です。ここでのCHROの役割は極めて重要です。
労働市場と経済の変動
デジタル化やグローバル化により、労働市場は大きく変化しています。人材の流動化が進み、企業は従業員のスキル向上を継続的に支援する必要があります。これらの複雑な課題に対応するため、CHROの役割が注目されています。CHROは、リスキリング【1】やアップスキリング【2】プログラムの導入、多様性を重視した採用プロセスの構築など、総合的な人材戦略を立案・実行する重要な存在となっています。
企業文化と価値観の変革
ビジネス環境が目まぐるしく変化する中、古い考え方や慣習にとらわれず、新しいアイデアを積極的に取り入れることが、企業の競争力維持と優秀な人材確保につながります。この変革の中心となるのが、ダイバーシティ&インクルージョン【3】です。様々な背景を持つ人々の個性や能力を活かせる環境を整え、全ての従業員が意欲的に企業目標に向かって働ける組織文化を育てることが重要です。こうした企業文化と価値観の変革を先導し、戦略的な人材マネジメントを行うのがCHROの重要な役割です。
エンゲージメントの重要性の高まり
エンゲージメント【4】の重要性の高まりも、CHROの役割が注目される背景のひとつです。近年、従業員の意欲や帰属意識が企業の生産性や業績に直接影響することが分かってきました。そのため、従業員の意見をしっかり聞き、働きがいのある職場づくりが求められています。従業員の高いエンゲージメントは、離職率の低下、生産性の向上、お客様満足度の向上などにつながります。このため、CHROには組織全体を活性化させる重要な役割が期待されています。
人材版伊藤レポートが示すCHROの重要性
2020年に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート【5】」も、CHROの役割が注目される大きな要因となっています。このレポートは、企業の持続的な価値向上のために人的資本への投資が重要であることを強調し、以下のような点を提言しています。
人的資本情報の開示
人的資本情報の開示【6】は、企業の人材戦略や人材育成への取り組みを外部に示す重要な手段となります。この取り組みにより、投資家や社会からの評価向上につながります。CHROは情報開示を主導し、企業の人材に関する取り組みを効果的に伝えることが求められます。
人材戦略と経営戦略の連動
人材戦略と経営戦略の密接な連動は、企業の長期的な成長を支える人材基盤の構築に不可欠です。CHROには、経営陣の一員として、両戦略の整合性を確保する責任があります。
取締役会での人材戦略の議論
人材戦略を経営の重要課題として取締役会で議論することで、より効果的な人材マネジメントが可能になります。CHROは、取締役会において人材戦略に関する議論をリードし、経営層の理解と支持を得ることが求められます。
経営トップ5Cの密接な連携
CEO、CSO、CHRO、CFO、CDOの主要な経営陣(5C)の密接な連携は、企業の成功に不可欠です。人材、資金、技術・情報に関する戦略を密接に連携させながら実行するためには、経営戦略上重要な案件について、CEOを中心に5Cの間で日頃から密なコミュニケーションを取ることが重要です。
参考リンク:
持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~|経済産業省
CHROの主な役割
CHROの主な役割は多岐にわたり、企業の人材戦略全体を統括する重要な位置づけにあります。
人材戦略の立案と実行
CHROは企業の長期的な成長を見据えた人材戦略を策定し、実行に移す重要な役割を担います。これには、将来の事業展開や市場動向を考慮した人材ニーズの予測、適切な採用計画の立案、人材配置の最適化などが含まれます。
<具体的な例>
・新規事業に必要な専門スキルを持つ人材の獲得
・既存従業員のスキルアップと能力開発のための施策
効率的な組織構造と企業文化の形成
企業の目標達成に向けて、最適な組織構造や文化を形成することもCHROの重要な責務です。これには、組織の効率性を高めるための部門再編、チーム編成の最適化、企業文化の形成などが含まれます。
<具体的な例>
・社内コミュニケーションを活性化するオープンスペースの導入
・迅速な意思決定を可能にするフラットな組織構造の採用
従業員のスキルアップと能力開発の推進
CHROは従業員のスキルアップや能力開発を推進し、企業の競争力向上に貢献します。社員のキャリア開発支援や専門スキル向上のための研修制度の充実などが、CHROの重要な責務となります。これらの取り組みを通じて、組織全体の能力向上と競争力強化を図ります。
<具体的な例>
・オンライン学習プラットフォームの導入
・次世代リーダー育成のための研修の実施
労働環境の整備と従業員の健康管理
CHROは労働法規制の遵守や従業員の健康管理など、労務関連の課題に対応する責任を負います。これには、適切な労働時間管理、ハラスメント防止策の実施、メンタルヘルスケアの提供などが含まれます。
<具体的な例>
・働き方改革に対応した柔軟な勤務制度の導入
・従業員の健康増進を目的としたウェルネスプログラムの実施
CHROに求められるスキルと資質
CHROには、人事の専門知識だけでなく、企業の成長と人材戦略の実現を支えるための幅広いスキルと資質が求められます。
戦略的思考力
経営戦略と人材戦略を結びつける能力が必要です。これは、企業の全体的な目標や方向性を理解し、それに合わせた人材戦略を立案・実行する能力が求められます。
リーダーシップ
組織全体の人材育成や文化形成をリードする力が求められます。CHROは、単に人事部門のトップというだけでなく、全社的な人材育成や組織文化の形成を主導する立場にあります。
コミュニケーション能力
経営陣や従業員との円滑なコミュニケーションが不可欠です。CHROは、経営陣に対して人材戦略の重要性を説得力ある形で伝え、同時に従業員の声を経営に反映させる橋渡し役を担います。
データ分析力
人材に関するデータを分析し、意思決定に活用する能力が重要です。HR Tech【7】の発展により、人材に関する多様なデータが取得可能になっています。CHROには、これらのデータを適切に分析し、採用、配置、育成などの意思決定に活用する能力が求められます。
変革推進力
急速に変化する環境に適応し、組織を変革する力が必要です。テクノロジーの進化やグローバル化など、ビジネス環境は急速に変化しています。CHROには、これらの変化に柔軟に対応し、必要に応じて組織や人事制度を変革する力が求められます。
経営者・人事担当者のための「CHRO」Q&A
Q1:CHROの役割は従来の人事部長とどう違うのでしょうか?
A: CHROと人事部長の主な違いは、その戦略的位置づけと影響力の範囲にあります。CHROは経営陣の一員として全社的な戦略立案に関与し、より大きな権限と責任を持ちます。一方、人事部長は主に人事部門の運営に焦点を当てます。CHROはより広範なビジネス知識を持ち、人材戦略をビジネス戦略と直接結びつけ、他の経営陣と対等に意見を交わし、全社的な意思決定に影響を与えます。
Q2: 人事経験者しかCHROにはなれないのでしょうか?
A: CHROに人事経験は必須ではありません。戦略的思考力、リーダーシップ、ビジネス知識など、多様なスキルが重要です。これらのスキルは他部門でも培えるため、事業部門や戦略部門の経験者がCHROに就任することもあります。ただし、人事の専門知識は重要で、就任後も継続的な学習が必要です。人材を戦略的資産として捉え、経営戦略と結びつける能力が最も重要となります。
Q3: 中小企業でもCHROの役割は重要ですか?
中小企業においても、CHROの役割は非常に重要です。中小企業では個々の従業員の影響力が大きく、適切な人材戦略が成長の鍵となるため、戦略的な人材活用が不可欠です。限られたリソースを最適化し、急速な成長に対応するためにも、CHROの視点は重要になります。中小企業では必ずしもCHROという役職を設ける必要はありませんが、経営者や人事責任者がCHROの視点を持つことで、組織の成長と競争力強化に大きく貢献できます。
まとめ
CHROは現代の企業経営において不可欠な存在となっています。人材戦略の立案と実行を通じて、組織の成長と企業価値の向上に大きく貢献します。さらに、経営陣の一員として重要な意思決定や組織全体の方向性を人材の観点から導く大切な役割を果たします。
今後、ビジネス環境がさらに複雑化し、変化のスピードが加速する中で、CHROの役割はより一層重要性を増すでしょう。人材を中心に据えた経営戦略の策定と実践により、企業の競争力強化と持続可能な成長を実現することが期待されています。
関連用語
【1】リスキリング(Reskilling)
従業員に新しいスキル、能力を習得させることで、職場の変化や新たな業務にも対応できるようにする取り組み。
【2】アップスキリング(Upskilling)
現在の職務や役割でより高度な能力を身につけるため、既存のスキルを向上させたり、新しいスキルを習得したりすること。
【3】ダイバーシティ&インクルージョン
多様な背景や価値観を認め、尊重し、それぞれの個性や能力を活かす組織づくりの考え方。
【4】エンゲージメント(Engagement)(リスキリング用語集⑧)
従業員の仕事や組織に対する熱意、関与度を表す概念。生産性向上や離職率低下につながり、組織の成長に重要な要素。
【5】人材版伊藤レポート(リスキリング用語集②)
経済産業省が発表した、企業が人的資本を活用し、持続的成長を図るための指針。スキル開発や多様な人材の活用を通じて、競争力強化を目指すことを提言している。
【6】人的資本の開示義務
企業が投資家や利害関係者に対して、従業員のスキルや育成状況、エンゲージメントなどの人的資本に関する情報を開示する義務のこと。透明性を高め、企業価値を正確に評価するために重要。
【7】HR Tech(Human Resources Technology)
デジタル技術を活用して人事機能を最適化する革新的なソリューション。採用から評価、教育まで、人事管理のプロセスを効率化し、改善するために使用されるツールや技術の総称。