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スキルベース すきるべーす

公開日:2025.02.04
スキルベース

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「スキルベース」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「スキルベース」をひとことでいうと? 

スキルベースとは、従業員一人ひとりが持つスキルや能力に基づいて人材管理や組織運営を行う手法のことです。

スキルベース の基本概念 

スキルベースは、従来の年功序列型や職務ベースの人材管理と異なり、個人の実際の能力に重点を置きます。例えば、プログラミング言語の習熟度やプロジェクトマネジメントのスキルレベルなど、具体的な能力を評価の基準とします。これにより、組織全体の生産性を向上させる効果が期待されています。

評価対象となるスキルには、プログラミングやデータ分析といった技術的なハードスキルだけでなく、コミュニケーション能力、リーダーシップ、問題解決能力といったソフトスキルも含まれます。これらの総合的なスキル評価により、より実践的で効果的な人材活用が可能となります。

スキルベースが注目されている背景

スキルベースが注目を集める背景には、複数の社会的要因が絡み合っています。

空前の人材不足

コロナ不況からの急速な景気回復に伴い、多くの業界で人材不足が深刻化しています。従来の採用基準や雇用形態にとらわれず、即戦力となるスキルを持つ人材を柔軟に採用・活用する必要性が高まっています。

学歴不問の採用トレンド

特にデジタル分野では、実践的なスキルや経験を重視する採用が一般的となり、学歴要件を外す企業が増加しています。これにより、多様なバックグラウンドを持つ人材の採用機会が広がっています。

DXに伴う人材構成の変革

DX(デジタルトランスフォーメーション)【1】の推進により、企業は既存の事業構造や人材構成を見直す必要に迫られています。新しいデジタルスキルを持つ人材の確保と、既存社員のスキル転換が急務となっています。

多様な働き方への対応

働き方改革の進展により、多様な勤務形態や雇用形態が普及しています。フリーランス、副業・兼業など、様々な働き方が一般化する中で、従来の画一的な評価基準では対応が難しくなっています。

「スキルベース採用」「スキルベース組織」とは

「スキルベース採用」とは、従業員の学歴や職歴ではなく、保有する具体的なスキルや能力に基づいて採用判断を行う手法です。従来の学歴や企業名に依存した採用基準とは異なり、従業員が持つスキルを優先的に評価することで、より適材適所の採用が可能となります。

例えば、技術職では実践的なコーディングテストを、マネジメント職ではケーススタディやロールプレイングを通じてリーダーシップスキルを評価するなど、具体的な評価方法が採用されています。

「スキルベース組織」とは、従業員のスキルや能力を中心に人材配置やプロジェクトチーム編成を行う組織形態です。役職や社歴にとらわれず、特定のプロジェクトに必要なスキルを持つメンバーを優先的に配置し、プロジェクト終了後はチームを再編成することで、組織全体の生産性向上と柔軟性を実現できます。

例えば、データサイエンティストとビジネス分析のスキルを持つ人材を、新規事業の市場分析プロジェクトリーダーとして配置するなど、従来の部署や役職の枠組みにとらわれず、個人の持つ複数のスキルを組み合わせて最適な人材活用が可能となります。

スキルベースとスキルファーストのちがい 

スキルファーストは、採用や人材配置において、まず必要なスキルを最優先で考慮するアプローチです。つまり、学歴や経歴よりも、実際に持っているスキルを重視する考え方です。

一方、スキルベースは、より包括的な人材マネジメントシステムを指し、スキルの評価・育成・活用を組織全体の仕組みとして確立することを目指します。スキルの評価だけでなく、キャリア開発や報酬制度なども含めた総合的な人事システムとして機能します。

例えば、スキルファーストは「プログラミングスキルがあれば、学歴や職歴に関係なく採用する」といった採用方針を指すのに対し、スキルベースは「プログラミングスキルのレベルに応じた評価基準を設け、それに基づいて育成計画を立て、報酬を決定する」といった包括的な仕組みを指します。

スキルベースとジョブ型雇用のちがい

スキルベースは、個人が持つ具体的な能力や技術に注目し、それらの習得度に応じて評価や配置を行う仕組みです。

一方、ジョブ型雇用【2】は、特定の職務(ジョブ)に必要な要件を明確に定義し、その職務内容と責任範囲に基づいて雇用管理を行う制度です。職務記述書(ジョブディスクリプション)【3】に基づいて、その職務に適した人材を採用し、評価を行います。

スキルベースでは、個人が習得したスキルの組み合わせによって、様々な方向性でのキャリア展開が可能です。例えば、技術スキルを活かしながらマネジメントスキルを習得することで、技術リーダーへの道が開けるといった具合です。

これに対しジョブ型雇用では、特定の職務に紐づいた形でキャリアが形成されていきます。営業職として採用された場合、基本的にはその職務領域内でのキャリアアップを目指すことになります。職務の変更には、新たな職務要件への適合性が求められます。

また、報酬体系にも違いがあります。スキルベースでは、保有するスキルの価値や習熟度に応じて報酬が決定されるのに対し、ジョブ型では職務等級に基づいて報酬が設定されます。

ジョブ型雇用の限界と海外の動向

海外では、変化に対応するための柔軟性を背景に、スキルベースの導入が進んでいます。
これらの動向の背景には、ジョブ型雇用の限界が関係しています。

従来のジョブ型雇用は、固定的な職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づくため、急速に変化する市場環境や技術革新に適応しにくいという課題がありました。特に、新技術の導入やビジネスモデルの変革が頻繁に起こる現代において、この課題はより顕著になっています。

2022年9月、世界最大の会計事務所であるDeloitteが運営するプラットフォーム『Deloitte Insights』は、スキルベース組織に関する調査報告書を発表しました。この報告書では、ジョブ型雇用の問題点について以下のように指摘しています。

仕事の最も基礎的な構成要素である「ジョブ(職務)」が、多くの組織の妨げとなって いる可能性があります。今日では 「ジョブ」の代わりに、多くの組織がスキルベースのモデルを適用し、必要とするアジリティ(機敏さ)、主体性、公平性を追求しています。

参考リンク:Deloitte Insights〜スキルベース組織―新たな仕事と労働者のモデル(日本語翻訳版)

日本企業においても、グローバル競争の激化や人材の流動化に伴い、従来の年功序列型からジョブ型雇用への移行を進めている最中です。しかし、より先進的な企業では、ジョブ型雇用を経由せずに直接スキルベースモデルへの転換を検討する動きも出てきています。この潮流は、グローバル化が進む日本企業にとっても、避けて通れない課題となっています。

スキルベース組織で期待される効果

スキルベース組織は、従業員のスキルや能力を最大限に活かし、企業の競争力を高めるための革新的な組織運営手法です。以下のような効果が期待されています。

環境変化の適応力強化

VUCA時代【4】といわれる予測不可能で複雑な環境下において、組織のニーズに応じて動的に人材を再配置できます。スキルベースの柔軟な組織構造により、急速な環境変化や不確実性に対して迅速に対応することが可能になります。

生産性の向上

従業員の強みに基づいた業務配置により、無駄を省き業務効率を高めます。各メンバーが得意分野に集中できるため、パフォーマンスが向上します。

主体的なスキル開発

従業員は自らのスキルを可視化し、スキルギャップを認識して学べるため、主体的にスキル習得に取り組む効果的な能力開発が促進されます。

従業員のエンゲージメント【5】向上

自分のスキルが正当に評価され、適切な役割で活躍できることが従業員の満足度向上につながります。自己成長への意欲も高まります。

定着率の向上

従業員が適切に評価され、自分のスキルを活かせる環境が整うことで、働きがいが高まり、離職率が低下し、人材の定着率が向上します。

スキルベース組織を実現する3ステップ

スキルベース組織を実現するためには、以下の3つの重要なステップを段階的に実施する必要があります。

ステップ1:必要スキルの策定

組織の新しい戦略や事業の方向性を踏まえた上で、各部署・職種において将来的に必要となるスキルを明確に定義します。

  • 現在の事業戦略と将来のビジョンの分析
  • 各部署の役割と期待される成果の明確化
  • 職種ごとの必要スキルの具体的な定義

ステップ2:スキルの可視化

従業員が保有するスキルの棚卸しを行い、組織全体のスキルを可視化します。

ステップ3:リスキリング【7】の推進

現状と目標とのギャップを分析し、具体的な学習計画を策定します。

  • 個人・組織レベルでのスキルギャップの特定
  • 優先度に基づく学習項目のリスト化
  • 具体的なリスキリング目標と指標設定

 

これら3ステップを着実に実行し、定期的な見直しを行うことで、効果的なスキルベース組織が実現できます。

経営者・人事担当者のための「スキルベース」Q&A

Q1:スキルベースの導入にコストはかかりますか?

A: 評価ツールの導入や従業員トレーニングなど、初期投資は必要です。ただし、eラーニングツールなどの低コストなソリューションを活用することで、初期費用を抑えることができます。さらに、長期的には人材配置の最適化によってコスト削減効果が期待できます。

Q2:どのような職種にスキルベースは適していますか?

A: IT、デジタルマーケティング、エンジニアリングなど、専門スキルが重視される職種に特に適しています。これらの分野では、技術の進歩が速く、必要なスキルが明確で測定可能であり、また継続的な学習とスキルアップデートが不可欠だからです。

Q3:どのようにスキルを可視化すればよいですか?

A: スキルマトリクスやデジタルツール、タレントマネジメントシステム【8】を活用して、従業員のスキルを一覧化し、より効果的に評価・管理することができます。特にタレントマネジメントシステムは、スキル評価だけでなく、人材育成や配置にも活用できる点で有用です。

まとめ 

スキルベースは、現代のビジネス環境に適応するための重要な人材マネジメント手法です。従業員の実践的なスキルと成長に焦点を当てることで、組織の競争力を高めることができます。このアプローチの強みは、個人の能力開発と組織の目標を効果的に結びつける点にあります。

テクノロジーの進化とグローバル化が加速する中、スキルベースの導入は、企業の持続的な成長と人材の最適な活用を実現する重要な戦略となっています。今後は、AIやデジタルツールを活用した効率的なスキル評価と、それに基づく戦略的な人材配置がより一層重要になるでしょう。

関連用語

【1】DX(デジタルトランスフォーメーション)

デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を根本的に変革し、顧客価値や競争力を高めるプロセス。単なるIT化ではなく、デジタル技術を核とした経営戦略の変革を意味する。

【2】ジョブ型雇用(リスキング用語集⑤

個人の職務や役割を明確に定義し、その職務に適した人材を採用・配置する雇用形態。

【3】職務記述書(ジョブディスクリプション)

特定の職務の責任、必要なスキル、資格、期待される成果を詳細に記述した文書。ジョブ型人事において採用や評価として活用される。

【4】VUCA時代

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、不確実で予測困難な時代を指す。

【5】エンゲージメント(Engagement)(リスキリング用語集⑧

従業員の仕事や組織に対する熱意、関与度を表す概念。生産性向上や離職率低下につながり、組織の成長に重要な要素。

【6】スキルマトリクス(Skills Matrix)

従業員一人ひとりが持つスキルや能力のレベルを表形式で可視化し、組織全体のスキル状況を把握するためのツール。

【7】リスキリング(Reskilling)

従業員に新しいスキル、能力を習得させることで、職場の変化や新たな業務にも対応できるようにする取り組み。

【8】タレントマネジメントシステム(Talent Management System)

 従業員の能力や潜在性を最大限に引き出すための戦略的な人材管理システム。採用、育成、評価、配置など、人材に関する包括的な管理を行う。