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HRBP えいちあーるびーぴー

公開日:2025.01.28
HRBP

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「HRBP」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「HRBP」をひとことでいうと?

HRBPは、経営層や事業部門のリーダーと連携し、企業の成長戦略を人事面から支える専門的な役割です。

HRBP の基本概念と役割

HRBPは、「Human Resource Business Partner」の略称で、日本では「人事ビジネスパートナー」とも呼ばれます。これは単なる人事担当者ではなく、事業部門と対等な立場で経営に参画する戦略的パートナーとしての役割を担います。

HRBPは経営層や事業部門のリーダーと密接に連携し、企業の成長戦略を人事面から支える専門職です。各事業部門に深く関与し、人材戦略を事業戦略に効果的に結びつけることが特徴です。その職務は採用戦略の立案、タレントマネジメント【1】、組織開発、従業員エンゲージメント【2】向上など、多岐にわたります。HRBPは事業部門の目標達成を人材面から包括的にサポートし、従来の管理型人事とは一線を画した戦略的・分析的アプローチで組織の課題解決に取り組みます。

HRBPが注目されている背景

経営環境の急速なグローバル化やデジタル化に伴い、企業の人材戦略は大きな転換点を迎えています。このような状況下で、従来の人事部門の枠組みを超えた新しい役割として、HRBPが注目を集めています。

グローバル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)【3】の進展により、企業を取り巻く市場環境は前例のないスピードで変化しており、不確実性の高いVUCA時代【4】において、事業戦略と人材戦略を一体化し、環境変化に柔軟に対応できる組織づくりが不可欠となっています。

また、少子化による労働人口の減少と、DXやAIなど高度な専門性を持つ人材へのニーズ増大により、人材獲得競争は年々激化しています。従来の人事部門は、全社共通の採用基準や報酬制度に縛られ、各事業部門が求める専門人材の獲得や、競争力のある待遇の提示が困難な状況でした。

このような中、リモートワークなどの柔軟な働き方の導入が進み、従業員のニーズに応じた新しい人事施策が必要となっています。また、ダイバーシティ&インクルージョン【5】の推進において、各事業部門の特性に合わせた施策の実施が求められています。

HRBPと人事部門のちがい

従来の人事部門とHRBPの最も大きな違いは、その役割と目的にあります。従来の人事部門が全社的な人事業務の管理と実行を担当するのに対し、HRBPは事業戦略と人材戦略を結びつける戦略的パートナーとして機能します。

具体的には、人事部門が全社共通の規則やプロセスに基づいて業務を遂行するのに対し、HRBPは各事業部門の固有の課題に対して、データに基づいた分析と迅速な意思決定で解決策を提供します。この戦略的かつ柔軟なアプローチが、HRBPの最大の特徴と言えます。

項目 従来の人事部門 HRBP
業務範囲

 全社的な人事業務
 採用、労務管理、給与計算など

 担当事業部門に特化した戦略的人事業務
経営層との関係  限定的な関わり

 経営課題の分析から施策立案まで
 密接に連携

アプローチ  受動的な業務処理  能動的な課題解決と提案
施策の特徴  全社統一の標準的な施策  部門別にカスタマイズされた施策
意思決定  全社的なプロセスに従う  事業スピードに合わせた迅速な判断

HRBPが担う具体的な業務内容   

戦略的パートナーシップの構築

HRBPは、事業部門のリーダーと定期的にミーティングを実施し、事業目標や進捗状況を把握します。そのうえで、組織課題を分析し、解決に向けた人事施策を立案します。たとえば、業績不振が課題となっている営業部門では、パフォーマンスを向上させるためのスキル強化トレーニングやインセンティブ【6】設計の見直しを主導します。

組織開発の推進

組織の成長を加速させるため、HRBPは必要に応じて組織構造や働き方の改革を提案します。離職率が高い部門であれば、エンゲージメントサーベイ【7】を実施し、その結果をもとに、職場環境やリーダーシップの改善策を実行することが挙げられます。

人材マネジメントの最適化

人材の採用から配置、育成、評価に至るまで、部門ごとに最適化されたプランを設計します。例えば、成長が期待される新興市場向けのチームには、現地市場に精通した人材を迅速に配置する体制を整えます。

HRBPに求められる3つのスキルと育成方法

1. ビジネス戦略理解力

HRBPに最も求められるスキルの一つが、ビジネス戦略を深く理解し、それを人材施策に反映させる能力です。このスキルの育成には、体系的なアプローチが必要です。

具体的な育成方法として、まず経営会議やビジネスレビューへの定期的な参加を通じて、事業戦略の策定プロセスを学びます。次に、財務諸表分析のワークショップに参加し、事業の収益構造や成長戦略への理解を深めます。さらに、3〜6ヶ月程度の事業部門へのローテーション配置を実施することで、現場の課題や事業特性を体感的に理解することができます。

2. データ分析・活用力

人材データを活用して意思決定をサポートする能力は、HRBPには不可欠です。
このスキルは、段階的な学習アプローチで効果的に育成できます。

まず、HRアナリティクスの基礎研修を通じて、データ分析の基本的な考え方と手法を学びます。次に、実際の人材データを用いたケーススタディを実施し、分析スキルを実践的に磨きます。さらに、統計分析ツールの活用トレーニングを行い、より高度な分析手法を習得します。定期的なデータ分析プロジェクトへの参加を通じて、スキルの向上を図ります。

3. コンサルティング力

経営層や事業部門に対して効果的な提案・助言を行うコンサルティング力は、HRBPの価値を最大化するための重要なスキルです。このスキルの育成には、実践的なアプローチが効果的です。

育成の第一段階として、外部コンサルタントとの協働プロジェクトに参加し、プロフェッショナルなコンサルティングの手法を学びます。次に、実際の組織課題に基づくプロジェクト実習を通じて、問題分析から解決策の提案まで一連のプロセスを経験します。また、定期的なロールプレイング研修を実施し、提案スキルの向上を図ります。

HRBP導入のための準備プロセス 

HRBPの導入は、組織の人事戦略と事業戦略を統合し、経営目標を達成するために重要な一歩です。ここでは、HRBP導入を成功させるための準備プロセスを解説します。

ステップ1:導入目的の明確化

HRBPの導入目的を明確にすることは、組織の成功に不可欠です。経営課題との結びつきを重視し、具体的な成果指標を設定することで、組織全体でHRBPの価値を共有することができます。

ステップ2:現状分析と課題の把握

組織の現状を正確に把握し、既存の課題を特定することは重要です。現場の声と経営層の期待のギャップを分析し、人事部門が直面している課題を明確にすることで、HRBPがどのように貢献できるかを具体化します。

ステップ3:適切な人材の確保と育成

HRBPには高度なビジネススキルと人事専門知識が求められます。内部育成では、事業部門とのコミュニケーション能力が高い人材を選定し、必要なスキルを育成します。外部採用の場合は、ビジネス経験と組織開発の知見を持つ即戦力人材を確保します。

ステップ4:組織体制と文化の整備

HRBPの成功には、組織全体での受け入れと理解が不可欠です。経営層の支援を得ながら、現場との信頼関係を構築し、中立的な立場で従業員の声を経営に届ける体制を整えます。

ステップ5:導入後のモニタリングと改善

HRBP導入後は、継続的なモニタリングと改善活動が重要となります。具体的な成果指標として、離職率の低下やエンゲージメントスコア【8】の向上、業績への寄与度などのKPI【9】を設定し、定期的に測定します。また、経営層や現場からのフィードバックを積極的に収集し、HRBPの業務内容や役割を調整していくことで、より効果的な運用が可能となります。

HRBP導入に取り組む企業の事例 

個人と組織の可能性を引き出す〜メルカリ株式会社

メルカリは2022年からHRBPを本格的に導入し、100〜150人規模の事業部門ごとに専任のHRBPを配置しています。同社のHRBPは、タレントアロケーション【10】や組織体制の設計、タレントマネジメント施策「Growing Star」を通じた人材抜擢など、幅広い戦略的人材マネジメントを展開しています。また、組織全体向けのHRBPと個人向けのHRPP(Human Resource People Partner)の二軸のアプローチにより、事業成長と人材開発の高度な両立を目指しています。事業部門との密接な連携と迅速な施策実行が特徴で、日系企業でありながら外資系的な要素も取り入れたユニークな取り組みを続けています。

参考リンク:変革への旅路を歩む、メルカリHRBPの挑戦|メルカリ

社員の自律的成長が企業の成長へ〜カゴメ株式会社

カゴメは、2017年度からHRBPを導入しました。同社は、2025年に向けた長期ビジョン「トマトの会社」から「野菜の会社」としての変革・成長を目指す中で、人的資本【11】の拡充が重要課題として認識されていました。カゴメのHRBP制度の特徴は、個人の自律的成長に重点を置いている点です。HRBPは、従業員一人ひとりの希望するキャリアパス【12】を明確化し、それを会社としてサポートする体制を構築しています。また、現場の人事課題を把握し、経営層や本部との連携を通じて効果的な解決策を提供しています。

参考リンク:「人的資本経営」を目指し毎年進化するカゴメの人事制度(PDF)

経営者・人事担当者のための「HRBP」Q&A

Q1:HRBPになるには人事経験が必須なのでしょうか?

 A: HRBPには必ずしも人事経験は必須ではありません。むしろ、ビジネス戦略の理解力、データ分析能力、コミュニケーションスキル、組織開発の知識などが重要視されます。ただし、人事の基礎知識は役割を果たす上で重要な要素となります。

Q2:HRBPとCHRO(最高人事責任者)のちがいは何ですか?

 A:CHRO【13】は全社的な人事戦略の策定と実行に責任を持つ経営層の一員です。一方、HRBPは特定の事業部門における具体的な課題解決や施策を実行します。つまり、CHROが人事部門全体のリーダーとして機能する中で、HRBPはその戦略を現場レベルで実現する役割を担っています。

Q3:HRBPの導入に失敗するケースの主な原因は何ですか?

 A:主な失敗要因として、経営層のコミットメント不足、役割と権限の不明確さ、事業部門との信頼関係構築の失敗、データ活用能力の不足、従来の人事業務との境界線が不明確であることなどが挙げられます。これらの課題に事前に対応することが成功の鍵となります。

まとめ

HRBP(Human Resources Business Partner)は、人事部門の新しい形として、企業の成長を加速させる重要な役割を担っています。その価値は、単なる管理業務の効率化や人材施策の実行にとどまらず、経営戦略と組織の実態をつなぐ架け橋となり、組織全体を次のステージへ導く推進力にあります。

HRBPの導入を成功させるためには、経営層のリーダーシップ、明確な役割設定、現場との信頼関係の構築が不可欠です。そして、HRBPが組織に根付くことで、企業は「人事」という領域を超えて、組織変革やビジネス変革の中核を担う存在となります。今後、HRBPがさらに進化し、新しい課題や期待に応える中で、企業における「人」の価値を最大限に引き出す重要な役割を担い続けるでしょう。

関連用語

【1】タレントマネジメント(Talent Management)

従業員の能力や潜在性を最大限に引き出すための戦略的な人材管理・育成プロセスを包括的に扱うマネジメント手法。

【2】エンゲージメント(Engagement)(リスキリング用語集⑧

従業員の仕事や組織に対する熱意、関与度を表す概念。生産性向上や離職率低下につながり、組織の成長に重要な要素。

【3】DX(デジタルトランスフォーメーション)

デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を根本的に変革し、顧客価値や競争力を高めるプロセス。単なるIT化ではなく、デジタル技術を核とした経営戦略の変革を意味する。

【4】VUCA時代

 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、不確実で予測困難な時代を指す。

【5】ダイバーシティ&インクルージョン

多様な背景や価値観を認め、尊重し、それぞれの個性や能力を活かす組織づくりの考え方。

【6】インセンティブ(Incentive)

従業員のモチベーション向上や目標達成を促すための報酬や特典。金銭的報酬だけでなく、昇進や表彰なども含まれる。

【7】エンゲージメントサーベイ(Engagement Survey)

従業員の組織に対する帰属意識や仕事への熱意を測定するアンケート調査。組織の改善点を把握するために実施される。

【8】エンゲージメントスコア(Engagement Score)

従業員の仕事や組織に対する熱意、コミットメント、関与度を表す「エンゲージメント」のレベルを数値化したもの。組織の健全性や改善点を把握できる。

【9】KPI (Key Performance Indicator)

組織や個人の業績を評価するための主要な指標。目標達成度や効率性を測定し、戦略的な意思決定や改善活動の基準となる。

【10】タレントアロケーション(Talent Allocation)

組織内の人材を最適な部署や役割に配置すること。個人のスキルや経験を活かし、組織の効率性と生産性を最大化することを目指す。

【11】人的資本

企業や組織の価値創造に貢献する従業員の知識、スキル、経験、能力、健康の総体。「人」を経済的価値を生み出す重要な資産とする概念。

【12】キャリアパス(Career Path)

従業員の職業人生における成長の道筋。個人の能力開発や目標達成を支援するとともに組織の人材育成戦略にも役割を果たす。

【13】CHRO(Chief Human Resources Officer)(リスキリング用語集⑨

最高人事責任者。企業の人材戦略を統括し、組織全体の人的資本管理を担当する重要な経営幹部。